進路の選択
大学進学をするかどうか
高校卒業後、大学等へ進学するかどうか、何を学ぶかは、その先の人生設計と大きく関わってきます。今回のインタビューでは、高校卒業後に直接大学に進学した人を中心にお話を伺いましたが、中には、まず専門学校に進学してから、のちに大学を目指した人がいました。初めに専門学校を選んだ理由について、小学校から特別支援学校(盲学校)に通っていた男性は、次のように話しています。
視覚障害があると鍼灸で身を立てるのが当たり前だった時代、特別支援学校の上級課程(専攻科)で資格を取ったのちに大学に進学したことについて、話した人もいました。
このように特別支援学校には職業訓練のための上級課程(専攻科)が設置されている場合がありますが、近年専攻科への進学者数は減少しており、大学に進学する人が増えています。
一方、直接大学に進んだ人に進学を決めた理由について聞いたところ、次の男性は、普通学校に通っていて周囲が行くから行くものだと思っていたと語っています。
日本では近年大学への進学率が高くなっており、「大学全入時代」とも言われます。その一方で、特別支援学校からの大学進学率は、特別支援学校の障害種別により大きな差があります。出身校の違いは、大学に行く理由に影響しているようでした。
次の肢体不自由の女性と、聴覚障害の男性は、高校が特別支援学校で、明確にやりたいことがあり大学に進学したことを語っています。
専門学校などを終えて社会人経験を経て、改めて大学に入学した人は、学びを深めたいといった動機で進学を決めていました。次の発達障害の男性は、時間ができたことが学び直しのきっかけになっていると語っています。
自分の障害がきっかけで進路を決める
大学に行くかどうかと同じように、専攻を選ぶ際にも、いろいろな要素が影響します。今回のインタビューに答えた人たちは、日本全体の学生の専攻割合と比較すると、法学・経済学などの社会科学系学部よりも保健医療や社会福祉系を専攻した人の割合が高いという特徴がありました。また、自分の障害が専攻選びに影響したという人が多くいました。
次の2人は、自分自身が障害のために支援を受ける過程でロールモデル(お手本となるような人)に出会い、自分もそうなりたいと思って、将来の職業を大学進学時に決めていました。
また、次の難病(筋ジストロフィー)の男性は、自分自身の病気を解明したいと思って研究者を目指したことを話しています。
次の弱視の男性は、高校進学の段階で工業系の高専を選択して、その後、大学には編入学で入学したという体験を話しています。
障害や福祉について学ぶ
専攻選びに自分の障害がどのように影響したかは、人によって様々です。次の2人は、将来自分と同じ障害を持つ人の役に立ちたいと思って福祉や障害について学べる専攻を選んだと語っています。
一方、幼少期に自分とは違う障害のある人と共に過ごす経験をしたことから、障害を持つ人の役に立ちたいと考えて専攻を決めた人もいました。
次の人のように、障害を持っていても自立したい、将来困らないようにという思いから、自分自身のために社会福祉を選んだという人もいます。
また、自分の障害のためにいずれ社会福祉と関わることが分かっているから、大学の専攻選びではそれをあえて避けたと語った人もいました。
障害で不利にならない専攻を選ぶ
障害が専攻選びに影響したという意味では、障害のためにできないことを避けたり、本当はやりたいことがあったが、障害が壁になるものを避けたという経験を、語った人もいました。
障害にかかわりなく専攻を選ぶ
またインタビューに答えた人の中には、特に自分の障害との関連ではなく、純粋に学びたいことで自分の専攻を選んだと語る人がいました。次の肢体不自由の男性は、もともと得意だった英語を中心に学びたいと専攻を決めています。
た、障害のために周りから勧められた分野があったが、それを押し切って、自分がやりたいことで専攻を選んだと語った人もいました。
2021年1月公開 2022年4月更新
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特別支援学校の高等科にあんまマッサージ、はり・きゅうの資格が取れる課程があった。自分は行きたいと思っていなかったが、親に泣きつかれて資格を取った
大学に合格できなかったので鍼灸の課程で資格は取ったが、鍼灸の仕事に就くとは思っていなかった。高校に入って早々から数学が好きで、ずっと数学を勉強したいと思っていた(NEW)
大学進学を考え始めた時期は覚えていないが、小学校から地域の普通学校に通っていたので、みんなが行くから行くもんだろうと思っていた
脚本家になりたいという夢があり、それが大学に行きたいと思った最初のきっかけだった。大学に行き視野を広げる経験をしてみようと思った
ロボットを作ってみたいと思い、ロボットを作るにはどうしたらいいかと高校の先生に聞いたら、まずは大学に行って研究室に入るのがいいとアドバイスをもらった(筆談)
社会人を経て、一人暮らしを始めたタイミングで時間が自由になり、前から大学で学びたかったので、大学に行き始めた
ある看護師に「そこら辺にいる15歳のガキ」だと言われ、「自分は人と違う」という思いから解放された。彼自身も透析をしており、彼のようになりたいと思った
中学のとき初めて言語聴覚士の人に会った。それまで自分に能力がなくてできないのか聞こえなくてできないのか分からなかったが、その人と話し、心が軽くなった
もともとバリアフリーに関心があったが、必修で生命科学を勉強したときに、この分野の研究をする方が病気を理解できるのではないかと思い、研究者を目指すようになった(NEW)
高校進学の際、進学を考えた高校は配慮に後ろ向きだったが、高専は前向きだった。当事者ならではのバリアフリーな街作りに関心があり、高専を選び、その後大学に編入学した(NEW)
将来は自分と同じ盲ろう者の支援をしたいと思い、そのために福祉の勉強が必要だと考えて専攻を決めた(手話)
小5で転校した盲学校で知的障害の友人ができたが、彼らに向けられる社会の目を感じ、そういう社会を知りたいと思って社会福祉を選んだ
車椅子で日常生活に介助が必要で、将来親がいなくなった後まずいんじゃないかなと思い、自分のために制度のことを知っておいたほうがいいと思った
高校卒業時には、文章を書いたりカメラで映像を撮りたいと思ったが、バリアフリーでない専門学校で、満足に学べなかったら困ると思った
将来は耳を使わない仕事がいいと思っていた。医学部にも興味があったが当時は欠格条項があり、それを改正してまで医者になろうとは思わなかった(手話)
人間関係がうまくいかない経験から心理学を学ぶつもりだったが、さらに自分を考える材料をくれるかもしれないと思って、障害のある人の心理や教育を学ぶことに決めた
当初は数学を勉強したかったが、入学後の独り暮らしやサークル活動を通じて社会や人の多様性を勉強したくなり、医学を専攻することを決めた
知らない言語に触れるのは新鮮で、もともと英語が得意だった。また社会や歴史も幅広く学びたいと思い、リベラルアーツを選んだ
病院の先生に、(聴覚障害があることで)大学に行くなら理系がいいと言われたが、自分の興味は政治学だったので、選択を誤ったとは思わなかった
