治療法の選択・意思決定

治療の選択は、乳がんの状態(大きさやがんの種類、悪性度、ホルモン感受性などのがんの性質、転移の有無、再発のリスクなど)、その人が置かれている環境、人生・生活の優先順位などによって、異なってきます。ここでは、インタビューに答えた人たちがどのようなことを考え、その治療を選択したのか、選択するまでの過程について、語っています。

手術法の選択肢には乳房温存術と乳房切除術があります。乳房温存術を受けた人たちがそのいくつかの理由について語っています。

ほとんどの人が可能であれば乳房温存手術を受けていました。しかし、中には乳房温存療法が可能でも、さまざまな理由から乳房切除術を受けた人たちもいました。今回、インタビューに協力してくれた非浸潤がんの女性は1人だけでしたが、彼女は手術当日まで迷った結果、最終的に乳房切除術を選択したそうです。

温存手術を望んでいても、検査結果から乳房切除術が勧められ、やむなく受け入れたという人や温存手術に期待をかけて術前抗がん剤治療を受けた人もいました。

乳房再建術については、乳房切除術と合わせて同時に再建術を受け、最初から乳房の膨らみが元通りになるよう望んでいる人たちがいる一方で、しばらく時間を置いてから考えることにしたという人もいました。とにかく胸を失うこと、胸の形が崩れることが嫌で治療法を模索し、今の病院にたどり着いた人もいました。(乳房再建術を参照)

中には乳腺内視鏡手術を受けた人もいましたが、自分でこの治療を選んだというより、紹介された病院でやっていたので、内視鏡手術を受けたと話していました。

リンパ浮腫や上肢の運動機能障害となることへの不安から、リスクを承知した上で、リンパ節を取らないでほしいと希望した人も数人いました(リンパ節郭清とセンチネル生検を参照)。

抗がん剤治療について、20代の体験者は、医師から勧められた治療がガイドラインと同じだったので、迷わず受けることにしたと話していました。術前に抗がん剤治療を受けたろう者の女性は本で読んだ知識があったので、医師から説明を受けたとき納得したと話していました。彼女は、術後にも経口抗がん剤治療を受けましたが、副作用を理由に自分で中止を決め、夫も意思を尊重してくれたそうです。また、自分の希望より家族の気持ちを大切にして治療を受けることにしたという人もいました。

転移や再発時における抗がん剤への気持ちは、初発の時とは異なり、脱毛を避けたいという声が複数ありました(再発・転移の治療を参照)。

ホルモン療法については、抗がん剤に比べて副作用が少ないと言われていますが、複数の人から妊娠・出産への影響や継続的に不快な症状が続くことを懸念する声が聞かれました。また、ホルモン療法で肝機能障害が生じ、途中で中止を選択した人がいる一方で、毎日、肝機能改善の注射を受けながら、治療継続を望んだ人もいました。乳がんの治療後、間質性肺炎を発症した女性は、どんなに確率の低い副作用であったとしても、重篤な副作用が起こり得ることと治療の効果に関して納得して治療の選択をすべきだと語っていました。

※細菌感染によって気管支または肺胞内部に炎症が起きる通常の肺炎とは違って、放射線や薬剤、膠原病などの影響で肺胞を支える壁などに起きる炎症をさします。

乳がんの治療は手術だけでなく、放射線療法、抗がん剤治療、ホルモン療法など複数の治療法を組み合わせて行なわれます。どの治療を選択するかという問題だけでなく、治療のスケジューリングの重要性について話していた人もいました。彼女は両側乳がんで手術のときだけ仕事を休むつもりだったのが、再手術になったことで予定が狂い、復職の見通しが立たないことがストレスだったそうです。

意思決定の仕方について、インタビュー協力者の中には、誰にも相談せずに決めた人もいれば、身近な人や患者会に相談した人たちもいました。ある女性は、自分で情報を集め、十分に吟味した上で、手術や抗がん剤治療などの治療を一切受けずに、無治療で経過を見ることを選びました。しかし、最終的に一人で決断することには躊躇し、信頼できる友人に相談したと話しています。情報を得すぎてもよくないと話している人もいました。

また、治療を選択する上で治療費の負担が少ないことや仕事が継続できることを条件としてあげる声もありました。

インタビューに答えた人たちは、自分で治療をどうするか決断していくことはとても悩むし、難しいことだったと語っています。一度、決断したあとで本当によかったのか不安を感じることもあります。ある女性は自分の選択した治療がイレギュラーで不安があったが、治療は人それぞれであることがわかってから、安心したと話していました。結果がわからないからこそ、自分なりに納得のいく意思決定をしていくことが大切だと語っていました。

なお、それぞれの治療法のページにも治療法の選択や意思決定に関連する語りが掲載されています。

2020年1月更新

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