抗がん剤・分子標的薬の治療

ここでは、乳がんの薬物療法のうち抗がん剤と分子標的薬を用いた治療に関する語りを紹介します。どのような薬物療法が推奨されるかは、ホルモン感受性やHER2、リンパ節転移の数、腫瘍の浸潤、がん細胞の悪性度などの病理診断の結果や年齢などで異なります。抗がん剤はがん細胞を死滅させる目的で用いられる薬剤で、吐き気や脱毛、白血球の減少などの副作用がよく知られています(脱毛については脱毛の影響を参照)。また、ハーセプチンに代表される分子標的薬は特定の因子を狙い撃ちしてがん細胞の増殖を抑制する治療薬です。これらの薬剤は、多くの場合、外来で静脈に針を刺し、点滴注射の形で投与されます。また、一回きりの投与ではなく、一定の間隔をおいて、決められた回数の投与が行われます。

乳がんの場合、手術後の再発予防目的(術後補助療法)、手術前にがんを縮小させ、手術範囲を小さくするなどの目的(術前化学療法)、再発・転移に対する治療目的で用いられます(再発・転移の治療も参照)。数人の人たちが手術前に抗がん剤治療を受けていました。術前抗がん剤治療は、しこりを持ったままの治療なので、不安を感じた人もいましたが、治療の効果や大きさの変化を感じたという人たちもいました(「セカンド・オピニオン」のインタビュー12を参照)。

ろうの乳がん体験者は、術前抗がん剤治療の副作用が強く、7ヶ月の治療予定が1年かかったそうです。治療後、がんは小さくならず、乳房切除術を受けましたが、目に見えないよい効果があったと思うようにしていると話していました。

副作用について

抗がん剤の種類や組み合わせ、投与回数などは、がんの種類や性質、病期などによって異なります。乳がんの場合、アドリアシンやファルモルビシンといったアンスラサイクリン系の薬剤を含んだ治療(EC、AC、FECなど)、タキソテールやタキソールといったタキサン系の薬剤による治療が多く用いられています。また、その両方を行う場合もあります。副作用は薬剤によって異なります。

吐き気・食欲不振

吐き気というのはインタビュー協力者が語った最も代表的な副作用の一つでした。アンスラサイクリン系の薬剤で吐き気を強く感じたと話す人たちが比較的多かったです。

吐き気のあるとき、同じ抗がん剤でも喉越しがよくてトマトばかり食べていたという人もいれば、トマトの赤が抗がん剤の色を思い出させて嫌だったと話してくれた人もいます。口にすることができたものは、比較的味の濃いもので、カップ春雨やハムサンド、梅干し、口当たりがよくてさっぱりした氷やアイスなど人によってさまざまでした。少しでも栄養を取れるようにジュースを凍らせたり、自家製シャーベットを作って、つらい時期を乗り切ったという人もいました。早い人で翌日、大抵の人が3-4日で楽になり、普通のものが食べられるようになったそうです。吐き気が強い時には、まったく食べられなくて、脱水になり、病院に行って点滴をしてもらったという人も複数いました。吐き気の出方についても個人差がありました。毎回、違ったという人もいました。嗅覚が変化し、においが気になったという人もいました。

※ファルモルビシンを含む抗がん剤の点滴。

下痢・便秘

そのほか消化器系の副作用として、下痢や便秘、それに伴う腹痛がつらかったと話す人たちが少なくなかったです。あとで便秘が副作用だと知って、治療中に医師に相談して下剤を出してもらえばよかったと話している人もいました。

味覚障害

また、消化器系の副作用のほかに、味覚障害を体験した人たちもいて、何を食べても味がわからないため、食欲不振やストレスにつながっていました。

だるさ・疲労感

そのほかに、何とも言えないだるさや疲労感を感じた人たちがいました。そういうときは、とにかく体の要求に任せて睡眠や休養をとるようにしていたそうです。

爪や皮膚の変化

このほか、爪や皮膚の変化を体験した人たちもいました。爪は浮いてきて、痛みを伴い、剥がれやすくなるほか、爪の色が黒くなったり白くなったりして不快だったので、プロの人にマニキュアを塗ってもらったという人もいました。

血管痛・血管炎

比較的稀な副作用として、血管痛・血管炎を体験した人たちもいました。これは、アンスラサイクリン系の薬剤で起こる副作用の一つです。

白血球数の減少

また、自覚症状ではありませんが、多くの人たちが白血球の減少について話していました。白血球の増減には周期があります。通常、治療後1-2週間で減った白血球が再び増えて、次の治療の時期になりますが、少ないままだと次の治療ができないため、人によっては500まで下がって白血球を増やす注射を受けたということです。また、白血球が少ないと感染しやすくなります。口内炎や未治療だった親知らずから感染を起こしてしまったという体験もありました。

しびれ、むくみ

タキソールやタキソテールといったタキサン系の抗がん剤では、しびれやむくみを体験した人たちがいました。これらの副作用は吐き気のように一時的なものではなく、抗がん剤治療を続けている間、終了後もしばらくは続く副作用で、さまざまな生活上の苦労が語られていました。家事をするときに包丁や熱い鍋には特に注意したと話す主婦もいました。

認知機能の変化

インタビュー協力者の中には、抗がん剤の治療中や治療後に、記憶力が低下したり、ぼんやりとして注意力が低下したように感じるなど、認知機能の変化を経験した人たちもいました。ホルモン療法と抗がん剤治療を受けていた女性は、仕事を再開することでこういった症状が改善していったと話していました。

ハーセプチン

HER2(ハーツー)遺伝子が陽性の人で、術後に抗がん剤治療に加えて、ハーセプチンという分子標的薬の治療を受けた人もいました。この女性はEC療法に引き続きタキソテールとハーセプチンの治療で、計1年間以上の治療となり、血管がつぶれてしまい使えなくなったため、中心静脈にカテーテルを入れてポートを置き、そこから何度でも針を刺して抗がん剤を投与できるようにしたそうです。

副作用との付き合い方

こういったさまざまな副作用に対して、その人なりの対処法がとられていました。治療中、指圧や漢方、お灸などを取り入れた人たちもいました。何人かの人たちは仕事や家事、孫の世話など何か集中することがあったので、副作用にばかり気が取られずに済んだということです。好きな趣味を続けることで、元気に過ごせたという人もいました。自分の外見の変化や不快な症状を、新しい自分に生まれ変わるための苦しみだとして積極的な意味合いで受け止めようとしていた人もいました。ある人は、自分の経験からつらいときは素直に周囲に甘えたほうがいいと語っていました。

抗がん剤治療は大変な治療であるからこそ、終了したとき、やり遂げて生きていることの喜びがあったことを話してくれた人もいました。

2018年9月更新

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