レビー小体型認知症に特徴的な症状:幻覚・替え玉妄想・認知機能の変動

レビー小体型認知症には、パーキンソン症状やレム睡眠行動障害 など(「認知症のタイプと症状の違い」を参照)、特徴的とされる様々な身体症状がありますが、ここでは主にレビー小体型認知症に特徴的な精神症状と認知機能の変動*について、認知症本人による主観的な報告を交えてご紹介します。

*幻視や認知機能の変動は、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症でも見られる症状ですので、これらの症状があるからと言ってレビー小体型認知症であることにはなりません。診断はそれ以外の症状や画像診断などから総合的に判断されますので、診断に疑問がある場合は専門医にご相談ください。

幻覚(幻視・幻聴・幻臭・体験幻覚)

いわゆる「物盗られ妄想」や「嫉妬妄想」(「対応に困る言動:不穏(不安で落着かない様子)・暴力(乱暴な振舞い・妄想」を参照)は、記憶障害のために自分がどこに財布を置いたかわからなくなっていたり、夫が出かけて行った理由を忘れてしまったりして、それを想像力で補おうとして、生み出されるものと考えられます。一方、レビー小体型認知症の人に特徴的な「幻覚」は、そういった被害妄想とは違って、視覚や聴覚、嗅覚、触覚などを通じて、実際にはそこにない人や物がそこにいる(ある)ように、はっきりと知覚されるもので、記憶障害などの中核症状が引き金となって生じる周辺症状というより、それ自体が中核症状としての認知機能障害の一つです。
落ちている小さなゴミが虫になって動き出すのを払い落そうとしたり、家の中に現れた見知らぬ人に話しかけたりといった、幻視を見たときの反応は、それが見えていない周囲の人間の目には異様なものに映り、行動・心理症状(BPSD)として問題視されがちですが、本人にとっては当然の行動や言動だったりします。

幻視をめぐるエピソードは、「認知症のタイプと症状の違い」 のページでも紹介していますが、見ている本人にとっては非常にリアルなものです。若年性のレビー小体型認知症の女性は、家の中に突然人が現れたら理性では幻視だとわかるが、そう思っていくら見てもやっぱり本物にしか見えないといいます。もし、幻視が認知症の症状だとは知らない人が、夜中にトイレをあけて人が立っているのを見たら錯乱状態になってもおかしくないわけで、周囲の人間にはそうした本人の気持ちに対する想像力が大切です。また、この女性は人や虫といった生き物が現れるだけでなく、止まっている物体が動きだすように見えることもあるそうです。

さらに、この女性は実際にはない音が聞こえたり(幻聴)、臭いを感じたり(幻臭)、痛みや熱を感じたり(体感幻覚)した体験についても語ってくれました。

幻視や幻聴自体は周囲の人の対応が悪いために生じているわけではありませんが、本人に見えているものの存在をいきなり否定したり、幻視への自然な反応として取っている行動を無理やりやめさせたりすることは、不安やストレスが強まり、症状を悪化させることにつながります。逆にパニックしている本人に周囲が上手に対応することで、幻覚が消えることもあるようです。認知症の人の幻覚を頭から否定しないで、ある程度楽しみながら付き合う、というのも一つの対処法です。また、虫などと見間違える可能性のあるものを見えるところに置かないようにする、というのも大事で、皿の上のパン屑が虫に見えるという幻視も、トーストをフレンチトーストに変えただけで改善されたそうです。

一方、父親がパーキンソン病だったという女性は、幻視のことを父親からよく聞いていたので、パニックを起こすこともなかったと言います。見えているものをどこかで疑っているので、状況を考えながら幻視かどうかを判断しているそうです。

替え玉妄想

また、レビー小体型認知症の人に特徴的な妄想の一つに「替え玉妄想」(「カプグラ症候群」と呼ばれる)があります。これは今目の前にいる自分の家族が実は偽者で、本当の妻や娘はどこか別のところにいる、と主張するものです。その原因についてはまだ完全には解明されていませんが、脳の中の、顔を見てそれが誰であるかを認識する部分と親しい人と触れ合うときに湧き起る感情をつかさどる部分がうまく連動しなくなっているからではないかと考えられています。そっくりだけれど親しみを感じないので、偽者だと思うわけです。私たちのインタビューでも、偽者扱いされた家族がその時のショックについて語っていました。

認知機能の変動

レビー小体型認知症のもう一つの特徴として、時間や場所、周囲の状況に対する判断力や理解力、計算能力などの認知機能の変動が挙げられます。他のタイプの認知症でも時間帯や日によって多少の認知機能の変動は見られますが、レビー小体型認知症では、調子のいい時と悪い時の差が大きいと言われています。こうした変化は、血圧の変化などの自律神経症状とも関係していると思われます。若年性レビー小体型認知症の女性は、そうした体調の変化についてストレスや気象条件とのつながりがあることを指摘しています。

この女性は、こうした体調の変動に対しては、理科の実験を楽しむような感覚で、脳の血流を良くするツボを押すとか、けん玉をやってみるとか、いろんなことを試していると話しています(「非薬物療法・リハビリ・代替療法」のページを参照)。さらに、友人から旅行に誘われたとき、こうした認知機能や体調の変動を心配して、行くことをためらいましたが、思い切って参加したところ、ずっと大笑いをしながら楽しい時を過ごすことができ、全く具合が悪くならなかったことから、「この病気はこうやって楽しく笑っていれば症状も出ないし、きっと進行もしない」と考えるようになったそうです(「認知症本人からのメッセージ」のページを参照)。 しかし、ときにはストレスとも体調とも関係なく、認知機能が変動して、自分ではコントロールできないこともあります。そのことについて、彼女は認知機能のうちのいくつかのスイッチがオンになったりオフになったりするような感じと説明し、認知症といっても一様にすべての機能が衰えていくわけではないと考え、悲観しないようにしていると話しています。

次の若年性レビー小体型認知症の女性も急に気分が悪くなるのは、季節の変わり目と関係があるかもしれないと話しています。いまは、スポンジを上から踏みつけて歩いているようなフワフワした嫌な感じがあるそうです。

2021年7月更新

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