家族の思い・家族への思い

ここではインタビューに協力した人たちが、乳がんという診断を、親、夫やパートナー、子どもたちにどのように伝え、それらの人々がその事実をどのように受け止めたのか、ということについての語りを紹介します。

娘として

娘が乳がんになることは親にとってとても辛い体験です。その親の悲しみや心配を察すると、親に病気のことを伝えることは、多くの体験者にとって一番辛かったと言います。ショックの少ない方法を模索し、きょうだいに相談したり、あとで手紙を書いた人たちもいました。心配をかけることが辛くて、何年も伝えられなかった、未だに伝えられないでいるという人たちもいました。

親が告知に同席した人もいましたが、一緒に病気に取り組みたいから、診断されてすぐに自分で話した、衝撃を和らげるため、母親を介して父親に伝えてもらったという人たちもいました。義父母には、直接、自分で話さず夫に伝えてもらったという人もいました。親たちは、娘が乳がんであると知って強いショックを受けたようでした。娘の乳がんに気づいて受診を勧めた経験がある女性は、自分がなったときよりもそのときのほうがショックが強かったと話しています。

一人暮らしをしている女性たちにとって、親は支えとなる大切な存在ですが、その一方で心配され過ぎることが時には負担になることもあるようです。あえて実家に戻らず一人暮らしを続けた人、再発がわかってから一人暮らしをはじめた人がいました。親元から遠く離れて闘病することが、親に強い不安を与えていたことに後から気づいたという人もいます。

妻・恋人として

夫やパートナーについては、一番身近な存在ということで、一緒に診断や病状の説明を聞いてもらうことが多いようです。あるご主人は、病院まで同行したのに、悪い結果を聞くのが怖くて診察室には入らなかったそうです。夫の方が本人以上にショックを受けていたという人は少なくなかったです。何人かの女性は、気持ちの面や家事・子育てなどで夫にかなりサポートしてもらったと話してくれました。病気の夫を思うと伝えるのが辛かったという人もいました。

夫が自分の気持ちを誰かに話したり、ストレスを上手に発散したりすることができなくて、つらかったのではないかと語っている人もいました。円形脱毛症になってしまったパートナーもいたそうです。それぞれに葛藤しつつも、関係性を維持できた人たちもいれば、思いがすれ違った結果、パートナーと別れることになってしまった人たちもいました。

母として

子どもに病気のことをどのように伝えるか、また母親の病気についてどのような反応かは、乳がんである本人の考え、夫の考え、子どもの年齢や性別によって異なっていました。小学生以下の子どもたちには、年齢に合わせてわかりやすく病気や手術のことを伝えた、入院することだけ伝えた、大人の会話でわかっているだろうが特に伝えていない、などの対応をしていました。ある人は、子どもに甘えたくなって、病気のことを言い過ぎてしまうこともあると話していました。

一緒に入浴するとき、子どもたちは子どもたちなりに親を気遣っていることについて、何人かの人が話してくれました。一方で、手術後は傷を見せられず、結局一緒にお風呂に入れる時期を過ぎてしまい、スキンシップが十分できなかったことを寂しく思った、授乳中に乳がんが見つかり、おっぱいを上げられなかったことを申し訳なく思ったという母親たちもいました。

子どもたちが周囲の人たちから何か言われて傷つくことがないよう、ごく限られた人にしか病気のことを知らせていないという人もいました。周囲に病気のことをオープンにしていたインタビュー協力者の1人は、小学生の娘が友だちの一言で傷ついたのでは、と語っていました。

中学生以上の子どもたちを持つ体験者は、ほとんどの人が折を見て、病気のことを話していました。思春期の子どもたちについて、ある人たちは親の病気に対して感情をあらわにしないで、淡々と受け止めたように見えたと話していました。自分ががんになったことを娘の教育の機会ととらえ、介護について学べるよう、あえて世話になることにしたという人や、乳がん検診やがん保険などについて改めて話をしたという人もいました。ある人は、息子には乳房を切除した気持ちや治療中の辛さをわかってもらえず、孤独だったと語っていました。一方、成人して子どももいる息子たちに心配をかけたくないと、何も伝えずに療養していた人もいました。

インタビュー協力者の中には、授乳期に乳がんが見つかり、お乳を飲んでいた子どもへの影響を心配したという人もいました。

嫁、妻、母として家族を支える

インタビューに協力した人たちの中には、嫁、妻、母として家族の介護に追われ、自分のことは二の次にならざるを得なかったという人も少なくありませんでした。夫の看病で受診を遅らせたという人、治療中に夫と父親を看取ったという人もいました。ある人は、夫もがんになり、自分が支えてほしいときに相手を支えなくてはならなかったと話していました。自分が乳がんになったのと同時に娘の妊娠がわかったという人は、娘が看病のため出産を迷っていると聞き、生むことを勧め、治療中にもかかわらず出産の手助けをしたそうです。しかし、彼女はそのおかげで自分の病気にだけ集中せずによかったと語っていました。

2018年9月更新

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